INPEX(1605)の企業分析

鉱業

INPEXは、20カ国以上でプロジェクトを展開する石油・天然ガス等開発企業で、日本のエネルギー消費量の1割に相当する石油・天然ガスを供給しています。経済産業大臣が筆頭株主で、拒否権付の黄金株も有します。欧米の石油メジャーに比べると規模は15~20%程度に過ぎませんが、日本のエネルギー安全保障にとって欠かせない企業の一つです。

結論としては、極めて重要な事業を営み財務状態も良好であるものの、業績が不安定であること、将来性に疑問符が付くこと、投資の負担が重いことを考えると、あまり魅力を感じません。石油・天然ガスへの投資なら、他にも多様なビジネスを手がけている総合商社に投資したいです。

どのように利益を得ているか?

まず、INPEXの売上高の内訳を見ていきましょう。現在の収益は石油・天然ガスに依存し、業績は原油価格や為替相場の動向に大きく左右されます。多くの企業にとって逆風となる原油高が業績拡大に直結するため、あえて保有する妙味はありそうですが、中長期的に石油・天然ガスの需要がどうなるのか、需要が減少しても価格の上昇でカバーできるかなど、今後の見通しは不透明です。

INPEXの売上高の内訳

【ブレント原油価格の長期推移】

原油価格の長期推移

オランダで洋上風力発電、インドネシアで地熱発電など再生可能エネルギー開発プロジェクトにも参加しているものの、大きく収益に貢献するには至っていません。石油・天然ガスの開発とは異なり、INPEXが強みを持つ分野ではありませんので、新しいビジネスの成否には懐疑的です。

地域別の売上高も見ておきましょう。主力はアラブ首長国連邦の石油事業オーストラリアの天然ガス事業で、近年は中東・アフリカの比率が上昇する傾向にあります。その他、ノルウェーの石油事業、インドネシアの天然ガス事業、新潟の天然ガス事業などを展開しています。

INPEXの地域別売上高

安定的にフリーキャッシュフローを創出しているか?

まず、INPEXの売上高と経常利益率の長期推移を見ていきましょう。2008年はリーマンショック、2010年代半ばはシェール革命やチャイナショック、2020年はコロナショックで原油安が発生し、度々打撃を受けてきました。2022年度は化石燃料への投資減少、コロナ禍からの経済回復、ロシアのウクライナ侵攻が重なって原油価格が高騰し、売上高は前年比186%で2兆円を超えました。「化石燃料への投資減少」は今後も継続する可能性があり、原油価格が高止まりする要因になり得ます。経常利益率は原油価格次第で激しく変動しますが、50%を超えることも多いです。

INPEXの売上高と経常利益率の長期推移

次に、INPEXの収益構造です。2022年度の営業利益率は53.6%と極めて高い水準にありますが、産油国へのロイヤリティとして支払う金額が営業費用ではなく法人税等として計上されているためで、これらを差し引いた最終的な純利益率は19.0%です。

INPEXの収益構造

最後に、キャッシュフローの長期推移です。営業キャッシュフローは比較的安定的に創出できていますが、投資キャッシュフローの負担が重く、直近の10年間の合計ではフリーキャッシュフローはマイナスです。さらに気候変動対応として、①水素・アンモニア、②カーボンリサイクル、③森林保全、④再生可能エネルギー、⑤石油・天然ガス分野の二酸化炭素低減という「ネットゼロ5分野」に対し、2030年までに1兆円を投じる方針です。不確実性の高い投資を余儀なくされ、原油価格や脱炭素という外部要因にも大きく左右されることになります。

INPEXのキャッシュフローの長期推移

無理のない株主還元を行っているか?

まず、INPEXのEPSと配当の長期推移を見ていきましょう。原油価格が下落すると減損損失を計上しなければならないため、売上高や営業キャッシュフロー以上にEPSは不安定です。中期経営計画の株主還元方針では総還元性向は40%とされ、業績が悪化すれば減配は必至です。空前の利益を計上した2022年度の配当は62円でしたが、年間配当金の下限は30円とされており、執筆時点は4%近い利回りがありますが、半分程度の減配は覚悟しておく必要があります。

INPEXのEPSと配当の長期推移

続いて、フリーキャッシュフローと株主還元全体です。直近の10年間の合計ではフリーキャッシュフローを創出できておらず、株主還元は借入金からやり繰りしていることになります。リーマンショック以降、自社株買いは凍結していましたが、潤沢なフリーキャッシュフローを創出した2021年度および2022年度に限っては配当支払いを超える規模で実施しました。

INPEXのフリーキャッシュフローと株主還元

INPEXは株主優待制度を実施しており、400株(執筆時点で65万円程度)を1年以上保有していると、1,000円分のQUOカードがもらえます。物足りないですが、2年以上の保有で2,000円分、3年以上で3,000円分と長期保有を促す仕組みになっています。

INPEXHP:https://www.inpex.co.jp/ir/shareholder/benefits.html

財務状態は健全か?

まず、INPEXの長期債務と自己資本比率の長期推移を見ていきましょう。フリーキャッシュフローがマイナスの傾向にあり、株主還元も行っているため、当然ながら長期借入金は増加しています。一方、積極的な投資によって資産も増大しているため、自己資本比率は横ばいで、70%程度を推移しています。財務状態は良好で、当面は問題なさそうです。

INPEXの長期債務と自己資本比率の長期推移

次に、INPEXのバランスシートです。10年間で固定負債は3倍以上、有形固定資産は4倍以上に膨らみ、バランスシートは大きく拡大してきました。原油高は落ち着きを見せ始めていますが、今後も資産に見合った収益を得られるかに注目しています。

【2022.3.31】

INPEXのバランスシート(2022)

【2012.3.31】

INPEXのバランスシート(2012)

コメント